わたくしは神経内科専門医です。今では脳神経内科医という名称に変りましたが。
30年近く前に大学を卒業し、ほどなく国立機構宇多野病院というところにレジデントして赴任しました。
私の目の前には「難病」という名の多くの神経疾患の患者さんが今までにないたくさんの人数入院されていました。
小児病棟には筋ジストロフィー、精神科病棟には難治性のてんかんの子供さん達、
そして神経内科病棟は主に3つあり、慢性期変性疾患の方がずっと入院されている病棟、免疫系疾患の急性期・慢性期治療の病棟、そしてほぼパーキンソン病関連の方の病棟でした。
一つの病棟に約60名ほど入院されていますので
実に200名近くの神経難病と言われる方々が多く入院されていました。(筋ジス・てんかんの方は除きます)
レジデントですので、もちろんすべての病棟の患者様を担当して治療にあたるわけですが
治療法がほぼないような疾患ばかりですので、いかに患者様とその病気について話をし、今をどう処するのか、そして今後どうしていくのか・・
ベッドサイドで患者様の横に腰掛け話をしたものです。
当時わたしは結婚はしていましたが子供もおらず、基本的に時間は無限にあるような状態でしたので、それも苦になることなく、一人一人の患者様から疾患について色々と教えていただきました。
さて中でも私はパーキンソン病と神経免疫の疾患に特に興味を持つようになりました。
もちろん他の疾患に興味がないというわけではなく、治療法がほとんどない疾患に比べるとパーキンソン病や神経免疫の疾患は何らかの手当の方法がいくつかあったという理由です。
ただ当時パーキンソン病の患者様は
かなりの方が早々に車椅子になったり、wearing offが強く日常生活自体がまともに送れなかったり・・・でした。
薬の選択肢がほとんどなかったからです。
宇多野病院には様々な新しい治療法の臨床試験の話がありました。
新しいドパミンアゴニスト、MAOーB阻害薬などなど
そして当時は淡蒼球破壊術という今ではDBSにとってかわられましたが、基底核と言われる構造物の一部を焼いて破壊してしまうというものでした。
新しいドパミンアゴニストは画期的で、患者様のADLが格段に上がり
エフピーなども重宝されるようになっていきました。
ただそういった薬剤でもってもコントロールが不可能な時に淡蒼球破壊術を選択される方が
一定数おられました。
今でもDBSについてテレビなどでもとりあげられていますが、
手術直後は、頭の中でその手術の侵襲でもって神経伝達物質の洪水にでもなるのか
ほとんどの患者様は劇的な改善を見せました。
ところが、その効果は一時的でその後はその恩恵をあまり感じられないような方が多かったように記憶しています。
やはり焼灼するというのは永久的で、もしトラブルがあったときに・・・ということで
しだいに刺激法にシフトしていきました。
DBSと言われる物です。
これについては破壊術よりはその効果は長くつづきますが永久的ではなく
DBSを施行された方にわたし自身が感じる独特の症状があるように感じました。
wearing offはすくなくなりますが、オン(上から)もオフ(下からも)圧縮されたような形で、少し動きにくい状態で患者様は過ごされることが多いように感じました。
刺激は寝る間もずっとされ続けており、その持続的な刺激に持続的に反応するということが
人間の頭にはやや難しいように感じました。
そして10年ほど前に、デュオドパという胃瘻という穴を腹部にあけてそこからカテーテルを空腸までもっていき、ドパミンが吸収されるまさにその場所に持続的に薬が注入されるというもので、胃瘻「え?」持続注入?「え?」という侵襲が少し大きい物ではありますが
薬による副作用は限定的で、もっともっと簡単にできるのであれば是非トライしてほしい治療法でしたので
当時担当していた多くの方を、宇多野病院などに御紹介させていただきました。
ドパミンこそがパーキンソン病の方にとって必要なものであり、それをなるだけ変動させずに体に吸収させるというところに大きな大きなハードルがありました。
パッチ薬なども開発しようと何度も試されながら、それはならず
簡単なようでドパミンの持続吸収は本当に難しい課題でした。
そして今度発売される薬は、皮下にインスリンの針よりは少し太いですが、その針を貼りつけそこからドパミンを持続注入するというものです。
30年前にはそんなもの簡単にできるんじゃないの?と考えていましたが
この30年の時を経てやっと実現することになりました。
諸手をあげて皆に是非是非どうぞーと言うものではありません。
針は痛いでしょうし、貼り替えないといけませんし、
弁当箱みたいな器具を持ち運ばないといけませんし、
薬の量の設定も微妙で中々うまくいかないこともあるでしょう。
でもパーキンソン病の方にとってはめちゃくちゃすごい治療の選択肢ができたと確信しています。
発売はまだですし
発売されたら是非是非使ってみたいという患者様、そして使ってみたいと私自身が感じる方々に治療を開始してみて、いい結果が得られますように・・・と願っています。
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